2021
11.26
Vol.69 ⑥ 特集◎「フィッシングキャンプで心呼吸!」より
— 赤津孝夫の「野営釣り道具考」—

「達人から学ぶ、実践的道具選び」

取材・文◎本誌編集部
語り◎赤津孝夫
写真◎足立 聡

「ちび鉈(なた)片刃」は、大きな薪を割るには小さいが、竹細工や小さな薪を割って焚きつけに使うのに大活躍してくれる。もちろん包丁としても使える万能な鉈。●全長:約190mm、刃渡り:約120mm 

 キャンプをするときは、ただでさえいろいろなアウトドアギアが必要になります。フィッシングキャンプでは、そのうえ釣り具まで携行しなくてはなりません。道具のそろえ方は、暖をとり、食事をして、寝る。それを屋外で行うための道具を用意すればよいのです。私の経験上、木を切ったり食材をさばいたりするためのナイフ、それから調理をするために焚き火の火を熾す道具、最低限それさえあれば、あとはなんとかなるように思います。

「ヒルバーグ タープ ウルトラライト グリーン」 
テントにも使用されている軽量で頑丈な素材、Kerlon 1200を使ったヒルバーグのタープ。ソロキャンプで十分なスペースをカバーできる。また、適度な遮光性があり、心地よい日陰を作ってくれる。

 テントだって、そんなに立派なものを持って行く必要はありません。暖かい時期はタープだけ張ってその下で寝てもいいですし、それが案外気持ちよいのです。西部劇なんかで焚き火の横で寝ているシーンがあるでしょう? アメリカでは、結構そういう感じで一夜を過ごす人も多いのです。日本の場合は湿気が多く夜露が降りることがありますが、タープを張っていればそれも防ぐことができます。なかでも優秀なのが、スウェーデンのアウトドアブランド「ヒルバーグ」のタープです。驚くほど軽量なのにとても丈夫で、コンパクトに折り畳めるのでかさばることもありませんので、フィッシングキャンプにもおすすめです。

「ヘリノックス ライトコット」
ヘリノックスのコット・シリーズの中で最軽量を実現したモデル。収納時も非常にコンパクト。総重量1.2㎏、片手で楽に持ち運べるほどの軽さだ。

 タープの下で寝るときに使ってみてほしいのは、コットと呼ばれる組み立て式の簡易ベッドです。脚が付いており地面から少し上がるので、設置する場所に石が転がっていたりしても気にする必要はありませんし、硬い地面に直接横たわるわけではないので体に負担もかかりません。さらに暑い時期は、タープの下にモスキートネットをつり下げてコットに寝転び涼しいなかで眠りにつくのは、本当に気持ちがよいものです。

「コクーン(Cocoon)インセクトシールド・モスキートネット・ウルトラライトダブル」
キク科植物の成分を配合した繊維との混紡により、人体にやさしく無臭で防虫効果を発揮。コンパクトに収納でき重量250gと軽量で、トップループが付いて簡単に設営が可能。

 テントとハンモックが融合したような「ヘネシーハンモック」という面白いギアもあります。木と木の間にハンモックを張り、その上にフライシートを重ねることで、雨や日差しをしのぐ構造になっています。モスキートネットでハンモックを覆うので、蚊などの虫も気になりません。宙に浮いているので地面が傾斜地だろうが、岩場や水溜りがあろうが関係ありません。普通のテントよりも軽量なので、持ち運びも楽です。僕自身、カヤックで川下りをするときはいつも「ヘネシーハンモック」を使っていますし、渓流釣りでは、かなり役に立つはずです。

 寒さを感じる時期に備えて、寝袋はいいものを一つ持っておいた方がよいですね。コンパクトで暖かいのは、やはりダウンの寝袋です。化繊を充填したものもありますが、僕はあまり使い分けることはしません。ダウンの寝袋って、想像以上に長持ちするのですよ。僕が一番長く愛用しているもので、45年くらい使っています。防水透湿性に優れたゴアテックスのシュラフカバーもあると便利で、結露や雨を防げるので寝袋の中を快適に保てます。

「コクーン(Cocoon)インセクトシールド・サファリ・トラベルブランケット」
クールマックス&インセクト素材を使用しており肌触りもよく、汗などの水分を外に放出して常にドライな快適性をキープ。

 寝袋の他にもうひとつ用意しておくと快適なのが、トラベルシーツです。オーストラリアのメーカーが開発した「コクーン」は、薄手の寝袋のような形状をしています。暖かい時期はそのまま中に入って寝てもいいですし、飛行機などで移動する際に羽織るといった使い方もできます。保温性に優れ寝袋に重ねて体を包めば、中の温度が5℃ほど上がるので温度調節をするのにも最適です。透湿性が高いので、蒸れることもありません。素材はいくつか種類がありますが、特にシルク素材は肌触りがよいうえ保温性も高く快適です。寝袋にゴアテックスのシュラフカバーと「コクーン」を組み合わせれば、どんな場所でも心地よく寝られることでしょう。

1973年にバックパッキングやクライミング用として、世界初のリモートバーナー式(デチャッタブル)を採用した歴史的なストーブ。赤津さん愛用の「MSR MODEL 9」。

 どんなキャンプでも、火を確保することが最重要です。火をおこせば暖かくなるし明るくなり、それだけでずいぶん安心感が高まります。日本では、たいていどんなところでも枯れ枝など燃えるものが落ちていますから、焚き火をするのに困ることもありません。慣れてくると燃料を現地で調達して、手早く火をおこせるようになるでしょう。
 効率よく火をおこしたいなら、「サバイバルストーブ」というギアも使ってみてください。電池で小型のモーターを回して多量の空気を送り込むことで、高い火力で燃料を燃やせる仕組みになっています。薪や木炭だけでなく生木でも、燃えるものならなんでも燃料になります。

赤津さんのアイディアで復刻した、1700年初頭にアラスカで毛皮貿易を行う人々の間で使われていた「火打石セット」。北米大陸最古の企業である「ハドソンベイカンパニー」で販売していた真鍮製の携帯タバコケースのレプリカに、フリント、火打金、チャークロス、ジュートがセットされ、フタ部分には6倍のルーペを内蔵。

 最近は火おこしの方法自体に凝っています。河原などでキャンプをするときは、炭素鋼でできた火打金を持っていくのです。そして、河原に落ちている石に打ちつけて火花を散らして火をつける。石はチャートや石英、黒曜石などいろいろありますが、もともと岩石に興味があったので、それを使って火おこしができるとなると、もっと面白くなってきました。
 火打金で飛ばした火花を着火させるには、火口になる燃えやすい素材を用意しておかなくてはなりません。よく使われるのは麻ひもをほぐしたもので、植物繊維なのでよく燃えます。それを油をたっぷり含んだ白樺の皮に燃え移らせると、すぐに火を大きくすることができます。タオルなどコットンの布を加熱して炭化させて作る「チャークロス」という燃料を自作しておけば、火花をしっかりキャッチしてじわじわ燃える理想的な火口になります。ライターや着火剤を使えばもっと簡単に火をおこすことはできます。しかし、せっかく非日常を味わえるキャンプなのですから、あえて火を生み出す過程を楽しんでみるのもいいのではないでしょうか。

木曾福島の天然木「ファットウッド」の着火材。
樹齢100年前後の赤松の老木の根を伐採後30年以上土中に置くと、木質部の多くは微生物により分解されるが、松ヤニは時間をかけて根の芯へ集まり分解されずに残根となる。それを掘りおこしたものを、「ファットウッド(とと松)」と呼び、昔は松明(たいまつ)として使われた。薪の着火材として優れ、マッチ1本で着火可能。小割(10~20cm)以外は一切の加工がされていない。

 釣り具と同様にアウトドアギアもよい物を見極めたり、長く使い込んだりする楽しみがあります。まだ経験したことがない人は、ぜひ一度、フィッシングキャンプに挑戦して、アウトドアギアの奥深さを知ってほしいと思います。

赤津孝夫(あかつ たかお)
1947年長野県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。幼少時より父親の影響で釣りや狩猟などを通して四季の山野に親しむ。1970年代初頭、日本にフライフィッシングとバックパッキングを紹介した芦澤一洋氏と出会い、エコロジーに根ざしたアウトドアスポーツの必要性を感じ、1977年にアウトドア用品の輸入販売会社「エイ アンド エフ」を創立。サバイバル術にも熟達しており、さまざまなワークショップでも活躍。著書に『スポーツナイフ大研究』(講談社)、『アウトドア200の常識』(ソニー マガジンズ)、『アウトドアサバイバルテクニック』(地球丸)など多数。

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