2019
09.20
Vol.63 ② 未体験ゾーンを開拓する土佐湾釣行記
特集『巨魚に魅せられた釣り人たちの冒険記』
「黒潮スペシャリストが導く、深場一本釣り」より

全長2m、200㎏まで成長する大型魚のイシナギ、
生長限界に達したカンパチ、ブリの老生魚を求めて

取材・文◎滝 徹也 写真◎能丸健太郎

「ジギングで朝から晩までシャクリ続ける人がいたなら、ボクはボウズで帰したことがありません。途中で寝たり休んだりした人は知りませんが、ずっと黙々と釣り続ける人には絶対に何かしら釣って帰ってもらう、というのがボクの船長としてのこだわり、プライドです。始業以来、ジギングボウズなしの記録は続いています」
 そう話すのは、高知県土佐清水市の港を拠点とする「沖吉丸」の北田智則船長だ。とくにスローピッチジャークを楽しむアングラーたちにとって、彼の名前、そして船名を知らない人はいないだろう。それほど彼の名や船名は、ジギングアングラーたちに浸透している。

遊漁がないときには、土佐清水港を拠点にさまざまな魚を狙う。写真はこの日、仲間が釣り上げたキハダマグロ。

 北田さんは、瀬戸内海に浮かぶ広島県・豊島の出身。豊島は住人のほとんどが漁師という島で、両親も夫婦で漁業を営んでいた。北田さんも夏休みなど長期の休みになれば、小学生になる前から船に乗って漁の手伝いなどをしており、「沖吉丸」は、先祖代々受け継がれてきた船名である。
 家業は継がず電気設備関係の会社に勤めていた北田さんは、結婚を機に高知へと移住。元来、超の付くほどの釣り好きであるため、プレジャーボートを購入し休日はもちろんのこと、寸暇を惜しんでロッドを握っていたという。
「最初は高知中心部の沖合で、餌釣りでガシラ(カサゴ)などを狙って釣りを楽しんでいたのですが、ある時から大きな魚を釣ってみたくなり、『ジギングなら釣れる』と思っていました。しかし、最初はまったく釣れませんでした」

足摺岬から太平洋を望む。黒潮が直接ぶつかるっていので、海水の透明度が高く綺麗だ。この沖に大物釣りで名高い「六の瀬」が広がっている。

 そこで深場専門の遊漁船に通いジギングの技術を学ぶなかで、めきめき腕を上げていく。
 これは想像だが、やはり血筋だろう。北田さんは、「人が釣れて、自分が釣れない理由」を海全体から潮、地形、魚の習性など、漁師目線で学び取っていったのではないだろうか。
 自分の船でもジギングに行くようになるなかで、遊漁船「沖吉丸」を創業したきっかけは、「自分が釣れればもちろん嬉しいが、自分の狙い通りに仲間が釣ったらもっと嬉しかった」からだと言う。
 また、足摺岬の付け根にある土佐清水港を拠点とした理由は、釣り場が持つポテンシャルの高さだと言う。足摺岬は、地元高知市中心部の人間でも遠いと感じるほどの場所。そのぶん、フィッシング・プレッシャーは低く、必然的に数やサイズに期待ができる。しかも足摺岬の沖合には、大物釣りのポイントとして名高い「六の瀬」と呼ばれる場所がある。
「足摺岬から六の瀬までは、距離にして36kmほどですが、そこまでのすべてがポイントで、海底は全部岩場なんです。水深1000mから96mまでの山で、そこに潮が当たっています。だから、魚が多いのも当たり前なんです。
 潮が速いので釣りにくいことも多々ありますが、魚は常に供給されています。私は、船の釣りは80%が船長次第だと思っています。せっかくこんなに遠いところまで来てもらったのだから、ぜひとも釣って帰ってほしいと思っています」と、北田さん。
 しかし、六の瀬といえども、大きなポイントはすでに攻め尽くされており、上物は釣れたとしても底物は、釣れにくくなってきている。そのため北田さんは、畳一畳、二畳といった小さな根を主に攻めている。そして、お客さんが釣ったら一年間は同じ根では釣らないという、自主的な規制を行っているそうだ。

「沖吉丸」の泳がせ釣りイシナギレコードの80kg。ものすごい体高と胴回りだ。「イシナギに関しては潮さえよければ、ほぼ確実に釣らせます」と北田さん。イシナギは100kgを超える魚。ぜひ狙ってみたい。

 これまでの「沖吉丸」の大物レコードは、イシナギは泳がせ釣りで80kg、ジギングで60kg。カンパチは泳がせ釣りで53kg、ジギングでは北田さんが釣った28kgだという。ちなみに北田さんの28㎏のカンパチを釣ったラインは、なんとPE2号。
「狙う魚のサイズが○○kgだから、このラインなら獲れるだろう……、というのが一般的な考え方ですよね。でも、私の場合はそうではありません。これは大物釣りに限ったことではないと思いますが、釣りで重要なのは、まずは魚を掛けることなんです」

大物釣りは、ちょっとしたミスが命取りとなる。仕掛けは単純だが、ハリ、スイベル、結びなどすべての面で完璧さが求められる。

 ちなみに泳がせ釣りであれば、一般的にはPE10号、12号クラスのラインが使われる。北田さんが泳がせ釣りで普段使っているのは、同様の理由でほぼ半分の6号。
 さらに足摺沖の潮の流れは非常に速く、ときには4ノット、5ノットという激流のようなスピードで流れている。しかも、上潮と底潮の流れの向きが違う二枚潮や、さらに中層の異なる流れが加わる三枚潮であることも多い。そんな状況の海に仕掛けを落として魚を狙うには、潮の流れの抵抗を受けにくい細いラインを使わなければ、仕掛けが狙った場所に落ちないという。
「私の船では、一度に多くの釣り人を乗せるようなこともしませんので、オマツリによるラインブレイクの心配はありません。だから、太いラインを使う意味があまりないのです。掛けた後のことについては、掛けてから考えればいいと私は考えています。釣り人の腕次第です。そこも釣りとしての面白さのひとつだと思います」

プロッター上に白くなっている部分は、すべてポイント。六の瀬にはこれほどまでにたくさんのポイントがあり、それだけこの海が豊かであるという証拠だ。

 北田さんは大きな魚を釣る醍醐味ついて、「大型魚は厳しい自然界の中で、これまで数々の危険や困難をくぐり抜け、生き続けてきました。そういう賢くなった魚を道具の工夫、潮や海底地形を読み“狙って釣る”」ことであり、そのためには、釣り人の高度な技術や強い精神力も要求されるが、「“釣れた”ではなく“釣った”ということが、最高に快感だ」と語る。

北田智則(きただ とものり)

1978年、広島県・豊島出身。代々続く漁師の家に生まれ、北田船長で6代目。サラリーマン時代にルアー専門の遊漁船の元でジギングを学び、遊漁船業を始めて8年になる。お客さんがいないときは漁にも出ており、イシナギやキンメ、メダイなどを狙っている。「絶対にボウズでは帰さなない」が北田船長の信条。

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