2018
11.09
Vol.60 ④
GTフィッシングのパイオニアと廻るルアーフィッシングの聖地
特集・八重山諸島の釣りと文化「石西礁湖せきせいしょうことコーラルフィッシング」より

東西約20㎞、南北約15㎞に広がるサンゴ礁海域の釣り

取材・文◎フィッシングカフェ編集部 写真◎大方洋二(水中写真)、能丸健太郎

 力を増した入道雲が標高525.5mの於茂登岳おもとだけを飲み込もうとしていた。梅雨前の石垣島は、本州の初夏を思わせる爽やかな風が重い空気を押しやり、1年のうちで最も過ごしやすい季節だ。
 午前8時に石垣港ターミナルの裏側にあるマリーナを出船した32フィートのフラットボートは、東西約20㎞、南北約15㎞に広がる石西礁湖のほぼ中央を目指していた。
 航路を示すいくつもの灯標や灯浮標に沿って、竹富島を右手に見ながら東南へと向かい、まるで飛ぶように疾走する。やがて海面の色は、鮮やかなエメラルドグリーンからブルーの濃淡へと変わり、複雑な模様を見せる。
 この複雑な模様こそ、オーストラリアのグレートバリアリーフをも凌ぐ360種以上の造礁サンゴが分布する、海の豊かさの証だ。石垣島の「石」と西表島の「西」をとってつけられた日本最大規模のサンゴ群生地帯である石西礁湖は、GT(ジャイアントトレバリー/ロウニンアジ)フィッシングの世界に誇る日本の聖地として、ソルトアングラーの先駆者たちが、80年代後半から開拓してきた場所でもある。しかも自主的にバーブレスフックやキャッチ&リリース、禁漁期を促すことで、今なおGTの聖地として、多くのソルトアングラーたちに大きな夢を与え続けている。

スプーンにアタックしてきた、現地名でミミジャーと呼ばれるヒメフエダイ。大きいものは50㎝程になる。

 今回、船長として石西礁湖を案内していただいたのは、そのGTフィッシングの開拓者であり、日本有数のGTアングラーである鈴木文雄さんだ。
 鈴木さんは石垣島に移住後、海に出られる時間があればほぼ毎日、海図を片手に石垣島、西表島、波照間島の海を徹底的に調査したという。ポイントを縦軸に季節や潮の具合、天候などを横軸にGTの行動を予測し、石西礁湖を理解していったという。

フォールで誘うスローアクションの「ソアレ エージング」には、ヤイトハタ、イソフエフキ、オビテンスモドキ、スジアラ、バラハタの若魚などに驚くほど効果的だった。

 しかし今回は、石西礁湖の魚類の多様性を体験しようと、ライトゲームに絞った。ロッドは6~7フィート。PE1.5~2号にリーダーが16~24lb。普段使っているバスやシーバスのタックルでも十分対応できるものだ。ルアーはプラグ系のさまざまなタイプを試してみたが、結果20~30gのバイブレーション系と古典的な赤金のスプーンが実にいい働きをしてくれた。
 ポイントを廻りながらキャスティングを始めたのが9時過ぎ。釣り始めの1時間こそ苦戦したものの、10時を過ぎ潮が動き出してからは、何しろ釣れる。しかも、同じ場所でサスペンドのタイミングを変えるだけで、カラフルなコーラルフィッシュたちが、次々と上がってくるのだ。
 また、今回使用したフラットボートはデッキが広く、石西礁湖のような波が穏やかなインリーフのシャロ―でルアーをキャストするには、かなり高いパフォーマンスを発揮する。ボートフィッシング初挑戦の方はもちろん、少年アングラーたちへ魚類図鑑を片手に釣りを通した自然教育を実践する場としても利用できるだろう。

インリーフにおいて、フラットボートは釣りからダイビングまで、そのデッキの広さを利用し非常に使いやすいボートだ。大物とのやり取りも十分楽しめる。

 午後2時を回った頃だろうか、「少し大きいルアーを投げてみましょうか」と、鈴木さんは両手でロッドをつかみ船尾に立った。グリップエンドを高く振り上げ、後ろ足にかけた重心を力強く前足に移動させ、上半身を鋭くひねる。すると巨大なペンシルベイトは大きな放物線を描き、遥か遠くの海上に落下する。
 腰から下の重心移動と回転、ロッドを倒す腕力など、一瞬の間に一連の動作が連携し、ルアーに強力なパワーを与えるのだ。そして、着水したペンシルベイトに巧みなロッドワークを駆使して、命の息吹を注ぐ。するとそのペンシルベイトに、大きなバラフエダイが喰いついた。

納竿前、鈴木さんに大きめのペンシルをキャストしてもらった。すると、海面が盛り上がるように、5~6㎏のバラフエダイが飛び出し、楽しくもエキサイティングな釣りが堪能できた。

 石垣島への帰路、鈴木さんは「この石西礁湖にこれだけ多くの魚種が生息するのは、大規模な造礁サンゴと、そのサンゴ海域に流れ込む絶妙な潮流が大きな要因なんです」と、話してくれた。
 後日、古くから石西礁湖のサンゴ礁の調査研究に尽力されてきた御前洋みさきひろしさんに石西礁湖についてお話をうかがうと、サンゴは大きく2種類に分けられ、ひとつは単体で生息する非造礁サンゴ。もうひとつは造礁サンゴ。石西礁湖のサンゴは後者の造礁サンゴで、体内に小さな藻である褐虫藻かっちゅうそうを棲まわせて活発に光合成を行い、水面に向かって成長する。サンゴが水面に向かって大きく成長すると、以前から生息していた下の方のサンゴは、光があたらず死んでいき、それが海底に積み重なってサンゴ礁が形成されていくと説明してくれた。
 さらに、造礁サンゴの海は褐虫藻の光合成などによって、海中に多くの酸素が供給される。また石化したサンゴにも海藻類が生息し、酸素が多ければ魚類や甲殻類など他の動物の生育を助ける。サンゴの種類や生育環境が変わることで、それに合わせて魚類は多様化し、種も増え、その結果、日本の魚類は約4000種だが、石西礁湖にはその内の2500~3000種の魚類が生息しているのだと言う。

石西礁湖では、古くからその豊かなサンゴ礁海域を利用し、海人うみんちゅによる『電灯潜り漁』が行われていた。また半球状のキクメイシなど、石化したサンゴも家屋建築の礎石などに利用されてきた。

 また、鈴木さんは、釣り人の目線で長年、八重山の海を眺め実感するなかで、そうした豊饒なサンゴ海域にフィリピン海域から流れる黒潮本流が、与那国島の手前南側で分流し渦を巻き、その渦が西から東へと流れ、石西礁湖に湧昇流となって流れ込む。その湧昇流が干満の差によって、石西礁湖全体にサラサラとした潮の流れをもたらし覆っている。この潮の流れが、石西礁湖の生物にとってさらに重要なのではと言う。
 石西礁湖のサンゴは海水温の上昇等に伴い、世界的に広がる白化現象、オニヒトデの大量発生による食害でかなりダメージを受け、再生中だ。しかし今でも魚の数や種類は多く、世界中のアングラーに紹介できるスポーツフィッシングのフィールドであることに変わりはない。この貴重な場所をどう守り生かし、楽しむか。今後も石西礁湖から目が離せない。

鈴木文雄(すずきふみお)

1951年北海道札幌市生まれ。青山学院大学卒業。大型魚と出会うため世界を釣り歩く。GTフィッシングに関して日本におけるパイオニア。1988年、37歳で東京から石垣島に移り住み、以後30年以上、大魚を釣るための情熱を失うことなく、釣りの面白さを追求している。

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