2021
10.29
Vol.69 ④ 特集◎「フィッシングキャンプで心呼吸!」番外編
— 地磯野営派の独創的な釣り —

「テントを使わず釣りを楽しむ野営術」

取材・文◎編集部
語り◎宮崎紀幸
写真◎狩野イサム

 渓流や湖、海など、あらゆるフィールドでルアーゲームを楽しむフリ-ランスライターの宮崎紀幸さんがフィッシングキャンプに目覚めたのは、今から30年前。浪人生時代にアウトドア雑誌の編集部でアルバイトをしたのがきっかけだったという。

東伊豆の穴場の地磯で穴釣りをする宮崎さん。うねりによる高波に気をつけながら波打ち際の岩陰を探る。「穴釣りは手堅い釣りのはずなのに、海が荒れているからかなかなかあたりがないですね」と宮崎さん

「穴釣り、エギング、シーバス、渓流ルアーと、フィールドも魚種も選ばずに幅広く釣りを楽しんでいますが、基本となっているのはルアーです。近場で釣るときでも、手軽にタックルを持ち運べますし、忙しい時は短時間で納竿することができます。僕の性格に合っているんです。ただ、遠征したときはじっくり楽しみたいので、野営が前提ですね」と宮崎さん。

ベース基地からかなり離れたポイントまで移動して、ようやく1匹目のソイを釣り上げた。胸ビレを開いて踏ん張るので、小さくても引きは強い。寝床はすぐそばにセットしてあるので、時間を気にせず釣りに集中できる。

 そして、最近のお気に入りは、ジグヘッドにワームを付けて、磯でソイやメバルを狙うライトゲーム&シンプルキャンプだという。なかでもソイは、宮崎さんにとって渓流でいうイワナと近い位置づけで、基本的にはリリースする。しかし、自分が釣りをした川や海に溶け込んで一体になりたいという気持ちになったときは、1〜2匹ほど自然からおすそ分けしてもらうそうだ。
「ヒレ酒を作ったり骨せんべいにしたり、アラはスープにして、できるだけ無駄にしません。食べるからには、骨の髄まで味わいます」

大きな岩や立木、流木を利用して巧みにタープを張る。大きめのコットが2台入るほどの広さがあるため、日差しや雨も十分に避けられる。コットならば下の地形を気にする必要もない。

 この日はソイ2匹をキープし、晩餐としていただくことにして早めに納竿。キャンプ地は岩場の斜面を背に、少々の高潮や風は防げそうな大岩の裏だ。そこに流木と細引きロープを利用してメインタープを低く張り、さらに荷物を覆うように小さなタープを連結する。メインタープの奥にキャンプコットを置くことで、岩場でも快適な寝座を確保している。そして、宮崎さんはそのタープの中に釣り道具や野営道具を運び込むと、コンパクトな焚火台を引っ張り出し、風の向きを確認して焚き火の準備を進める。

ファイヤースターター、火口として使う麻紐、小枝をカットするためのノコギリ、レザーグローブなど、焚き火のための道具はフィッシングキャンプに必須。

宮崎さんは基本的にトートバッグ1つに収まるくらいの道具しか持ち歩かず、身軽なキャンプを楽しむ。焚き火台やグリルスタンドもできるだけコンパクトなものを選び、薪などもなるべく現地調達して荷物を減らす。

「まずは火をおこすことから始めます。僕は無類の焚き火好きで、普段から焚き火ばかりしています。燃料も現地調達で地産地消が基本。野営する場所の周りでよく燃えそうな枝を拾い集めておいて、焚き火にくべます」
 コンパクトな焚き火台にほぐした麻ひもと小枝を載せると、宮崎さんはファイヤースターターを取り出した。マグネシウムロッドを何度か擦り火花を麻ひもに飛ばすと、小さな火がポッと立ち上る。
「ライターで点火してもファイヤースターターを使っても、火は火なんですが、せっかくの非日常なのでこだわりたいんです。僕にとってキャンプをする時に欠かせない儀式のようなものです」
 焚き火が安定してきたら、生かしておいた2匹のソイを手早く絞めて血抜きをする。1匹は焚き火で直火焼きにし、もう1匹はアクアパッツァにするつもりだ。気づけばもうすっかり陽が落ちている。ランタンの灯りを頼りに、ソイの火の通り具合を確認しながら、宮崎さんは語る。

昼間は雄大な太平洋が視界いっぱいに広がる東伊豆の地磯だが、日が沈むと空と海との境目もわからなくなるくらいの暗闇になる。その分、焚き火の灯りがあたりを暖かく美しく照らし出す。

「僕は東京都世田谷区にずっと住んでいて、釣りを覚えたのも多摩川なんです。今も多摩川は面白いですね。季節ものの釣りは全部やっています。春先は遡上してくるマルタウグイを狙い、仲間うちで“ログサーモン”と呼んで愛でているのですが、婚姻色がとても美しいんです。6月になるとアユが解禁になります。昨年からアユルアーにはまって何度かトライしました。また、同じ時期に登戸(のぼりと)の堰周辺でシーバスも釣れますし、ミノーを激しく追いかけてくるニゴイを釣るのも楽しいですね。だいたい週に3日くらいのペースで、多摩川で釣りを楽しんでいます」
 東京に暮らしながらも、釣りが日常にある暮らしを送っている宮崎さんだが、これからはもっと遠征に出て釣りを楽しみたいと話す。

陽が沈むと周囲に明かりはなく、タープの下のLEDランタンが唯一の灯明。磯では足の長い大型コットがあると、地面を気にせず平らな場所を確保できる。

「20歳頃からフィッシングキャンプを始めたのですが、その理由のひとつは、ただ長く釣りを楽しみたかったからなんです。キャンプも釣りも好きだったので、両方を一度に楽しめるフィッシングキャンプは、理想的なアクティビティでした。しかし、社会に出てから仕事が忙しくなり、時間の余裕がなくなってきました。さらに結婚して子どもができると、自分の時間なんてなくて、家族連れでキャンプに行ったとしても、じっくり釣りを楽しむことなんてできません。でも、最近子どもが大きくなり、ようやく時間にも気持ちにも余裕が持てるようになりました。だから、もう一度、若い頃のように誰に気兼ねすることもなく、フィッシングキャンプを満喫したいという思いが自分の中で高まっているんです」

潮の香りと波音、焚き火の灯り、そして上質なシングルモルトがあるだけで、極上の夜を過ごすことができる。

 そう言いながら、キャンプ道具を収めたトートバッグから、おもむろに2本のボトルを取り出す。宮崎さん秘蔵のバーボンウィスキーとシングルモルトだ。
「フィッシングキャンプをするようになったもうひとつの理由が、現場で酒を飲みたいからでした。僕も年齢を重ねて、昔より酒の楽しみ方が分かってきたように思います。釣った魚で作った料理をアテに、焚き火やオイルランタンの淡い光の中でちびちび飲むシングルモルトのうまさ。それは都会では、決して味わえないものです。しばらくフィッシングキャンプから遠ざかっていましたが、その間、知らず知らずのうちに人生を楽しむための、さまざまな知識と経験を培うことができたからでしょうか。釣りとキャンプを突き詰めていけば、その先にもっと素敵な世界が広がっているのがわかるんです。それを味わうために、これからもっと積極的にフィッシングキャンプに出掛けようと思っています」

宮崎紀幸(みやざき のりゆき)
1972年東京都生まれ。釣りやアウトドアなどの専門誌で執筆を行うフリーランスライター。多摩川沿いに住み、焚き火とシングルモルトウイスキーをこよなく愛する。渓流や湖でのトラウトフィッシング、海でのソルトゲームなど幅広く釣りを楽しむルアーアングラー。

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