取材・文◎本誌編集部
語り◎奥本昌夫
写真◎足立 聡
今回、フィッシングキャンプ特集で取材した奥本昌夫さんは、トラウトやサーモンを求めて、テントや寝袋など野営道具一式を詰め込んだバックパックと釣り具を背負い、世界の釣り場を単独で釣り歩いてきた。現在、生まれ育った北海道の全域で、世界の釣り場で学んだ「自然へのインパクトを極力減らしたフィッシングキャンプ」のスタイルをフィッシングガイドとして実践している。その奥本さんに北海道でのフィッシングキャンプ、車や道具選びなどについてお話をうかがった。
「僕の場合、一年中北海道のフィールドを走っているので、まず走破性の高い4WDが基本です。次に長い距離を走るので、やはり燃料費を低く抑えたい。しかも深夜をまたぐ移動や日帰りで、かなりの距離を走る場合や何日間も釣り場を転々と移動しなければならないので、毎回宿泊施設を利用したり、キャンプの設営撤収を繰り返すこともできません。場合によっては翌日からのゲストのために、車内で毛鉤を巻くこともあります。そうなると車中泊が可能な車内の広さも必要です」
現在、奥本さんは、4WDディーゼルエンジンのRV車に外国製のカーサイドテントキットを装備し、車が走れる場所ならどこでもキャンプ可能だという。今回の取材では、ルーフサイドに格納されたテントを設営し、テントの中にタイイングのデスクとコットを組み立て、焚き火台の上で薪に火がつくまでにかかった時間は、わずか15分程度。日々の馴れもあると思うが、やはり早い。さらに奥本さんが持参した、焚き火台の上で燃える薪の乾燥具合が抜群に良いのだ。
薪をワインに例えるなら、割ってから一年目が「ボジョレー・ヌーボー」、2年目が飲みごろの「ボルドーの赤ワイン」、油分の多い原木を上手に乾燥させた3年目の薪はワインを超え「極上のコニャック」に、同じ3年目でも油分の少ない原木の薪は「ビネガー(酢)」になってしまうと言われている。奥本さん自身で割った薪は、気を遣わず外で焚くには都合の良い「ボルドーの赤」だった。
ナタやアックスを使わずにナイフで薪を割る技術「バト二ング」でも気持ちよく割れ、目の詰まった堅い広葉樹の薪は、針葉樹のように派手に炎を上げて燃えることはないがススも出さず、熾(お)き火になって遠赤外線を放射しながらゆっくりと安定して燃えていた。こうした薪は暖や明かりが取れ、料理にも最適である。北海道の原野でのキャンプは、真夏でも焚き火が必要になること多く、その出来、不出来で一夜の満足度は大きく異なると奥本さんは言う。
奥本さんが現在のようなガイド業を始めたのは、3~4年前からだ。キャンプをしながら釣りを楽しむスタイルは、かつての経験が土台になっている。そして、実際にゲストの方と接して、「思った以上にこのスタイルを好んでくれる人が多い」ことに気づいたという。良いマス釣りを求めて、何の疑問も抱かず世界を旅し続けてきたスタイルが、予想以上にたくさんの人に喜んでもらえたことは、かけがえのない喜びだという。
「以前、一人でアラスカの川をカヤックで何日もかけて下ったことがあるのですが、僕が北海道でフィッシングキャンプの仕事をしたいと考えたとき、真っ先に浮かんだのがその体験でした。アラスカと北海道ではスケールが違いますが、アラスカの夏の朝の凛とした空気と植物が放つ独特の香りは北海道でも感じられ、近い体験が味わえます。むしろ北海道は、ちょうどいいロケーションだと思います。ガイドがいれば危険すぎず、便利過ぎず、程よい刺激もあります。
また、キャンプ生活は、すごくシンプルです『食べて、眠って、釣りをする』キャンプ生活をしていると、シンプルな食事がおいしく感じられるようになります。味覚が開くというか、素材の味や自分の体が本来求めているものがわかるようになります。そこに幸せと充実感を感じられるようになります」
北海道には世界でも屈指のバラエティに富んだ鱒釣りのフィールドがある。その大きな要因の一つは、魚が季節や場所によって生息形態を変えることだ。特にアメマスのように川と海を自由に行き来している魚は、流れの表層で昆虫などを捕食したり、あるいは表層直下の流れや中層、ボトムでも小魚や水生昆虫などを追いかけている。奥本さんはこれからもそのような魚の形態に合わせて楽しむ釣りとキャンプを追求していきたいという。
『Fishing Café』69号の特集では、奥本さんのキャンプスタイルの他に「北海道のマス釣り」や「世界の釣り旅」ついてもお話をうかがっているので、ぜひ覧ください。