さかなクンの初恋の魚は、間違いなくウマヅラハギです。顔が長くて水墨画のような、なんともいえない淡い美しさ。
「この青緑色のヒレをなびかせて泳いでいるんだ、可愛いな」と思いました。
好きになったきっかけは、タコが大好きで水族館に連れて行ってもらったとき、帰りに母が魚の下敷きを買ってくれたのです。
「うわ! 魚ってこんなにいっぱいいるんだ」と、タコばかりに夢中で気がつかなかったなぁと見ると、こんなに長い顔の魚がいるんだと、ウマヅラハギちゃんの3.5cmくらいの写真を見て好きになったんです。
次の日家に帰ると母が「今日は毛ガニが食べられるよ。北海道のおじさんから届いたテーブルの上にある箱がそうだよ」というのでフタを開けたら、下敷きの写真に載っていたのと同じくらいの3.5cmくらいのウマヅラハギが3匹いたのです。
「僕が一番会いたかったお魚ちゃんがここにいるんだ!」と、びっくりしまして感激しました。
触ってみると魚なのにヌルヌルしないでザラザラしていて、面白いなと思いました。正面を見たら「こんなに平べったいんだ、こんなにゆかいな顔をしているんだ」と、それ以来、魚を正面から見たり斜めから見たり、顔もわかって姿もわかるアングルで絵を描いています。
ウマヅラハギちゃんもそうですが、「この魚に会いたいな」とか「この魚いないかな」と思うと、目の前を泳いでいたり、漁師の友だちが「獲れたよ」とそのタイミングで連絡をくれたりして、「今この魚に最も会いたかったんだけど!」と、シンクロすることがあまりにも多いです。
最近も「ウミヒゴイちゃんいないかなぁ」と思って、漁師さんに尋ねたら「オラの網には年に1、2回しか入らないぞ」と言っていたのですが、次の日に「ウミヒゴイが入っているぞ!」と。
最近大きなニュースになったのはメガマウスザメで、漁師の友だちと「メガマウスザメ見てみたいよね」と言っていて、「オラも見てみたいけど、網に入ったら一緒に泳がせてやる」なんて話をしていたら、2週間くらいしたら「メガマウス入ったぞ!」「えっ~! 本当に!」ということがありました。
館山の地元に帰ったら5mくらいのメガマウスザメちゃんが、波左間海中公園さんの生簀で元気に泳いでいて、一緒に泳がせてもらってニュースになりました。
やっぱり、会いたいものとか会いたい人とか、会いたいお魚とか、将来なってみたい夢を強く思い続けていると、実現に結び付きやすいと思います。
たとえばさかなクンの場合は、まずタコを好きになったときにタコの図鑑を書いていたのが、東京水産大学の奥谷喬司先生で、先生にファンレターを書いたら返事をいただきました。
「タコの研究者は日本には少ないので、頑張って専門家になってください」と書かれていて、うれしくて感激しました。
小学校、中学校と進むうちに、あまりにも勉強をしなかったので、東京水産大学(現・東京海洋大学)に入れる学力レベルではなかったんですが、2006年にマグロを語るシンポジウムにお招きいただいて、自分のマグロに対する思いをお話させていただきました。
すると当時の東京海洋大学の副学長の先生が「さかなクン、うちの大学と一緒に何かできたらいいね」とおっしゃってくださいました。
その年の秋に客員助教授のお話をいただき、びっくりしました。一番憧れていた小学生からの夢の大学の先生になる機会をいただきました。
よくお子さまには「さかなクンは魚が大好きで、小学校の卒業文集にも『魚の博士になって、調べて絵を描いて図鑑を作りたい』と書きました。それがかなって、好きなことをずっと続けているんですよ」ということを伝えます。
「夢中になっていることとか、好きなことは、ぜったい大切に持ち続けてくださいね」と、よくお話させていただくのです。
虫とか動物とか、サッカーとか野球とかスポーツでも、パティシエさんやアーティストさんでもなんでも、やってみたいとか、これが自分に合っているとか大好きだとか、これは夢中になれるというものは、ぜったいに無理なく楽しく続けられると強く思います。