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風流・我流、平底サッパ舟でカレイ漁を伝承する『岩手真ガレイ愛好会』 撮影◎狩野イサム
Photographs by Isamu Kano

会長、岩渕公一さん(前列左端)を中心に活動する『岩手マガレイ愛好会』のみなさん。
会長、岩渕公一さん(前列左端)を中心に活動する『岩手マガレイ愛好会』のみなさん。
マコガレイの水中での泳ぎっぷりは、迫力がある。眉間を立てワニのような鋭い目でレンズをにらむ。掛けてからのファイトもトルクのある独特な引き味が楽しめる。
マコガレイの水中での泳ぎっぷりは、迫力がある。眉間を立てワニのような鋭い目でレンズをにらむ。掛けてからのファイトもトルクのある独特な引き味が楽しめる。

三陸海岸では各地の湾奥に点在する、カキやホタテの養殖棚に集まるカレイやヒラメをサッパ船という平底小舟を使って釣る漁が行われてきた。この釣りの特徴は三陸海岸特有の波の少ないフィヨルドで行うため、非常に趣のある釣りとして、江戸前のハゼ釣りなどと同じように、その風情が味わえると地域の人々に愛されてきた。そこで、今回、この釣りを伝承する『岩手真ガレイ愛好会』の例会を取材させていただいた。  点在するホタテの養殖筏(いかだ)の浮綱に船首のロープを結び、エンジンを止める。かすかに聞こえる風の音が頭上を通り抜け、仕掛けの袋を開ける「カサっ」とした小さな音さえ響く静寂があたりを包む。その静寂さと湾奥であるが故の波の静かさが、「マコガレイの係釣り」(船を養殖筏に固定する釣り)の大きな魅力だ。 陸奥・陸中・陸前の三つの地域からなる三陸海岸は、ご承知のように海岸段丘が発達し、南部はリアス式海岸となっている。なかでも、狭い湾が複雑に入り込んだ沈水海岸(相対的に海面が上昇した海岸)は、河川などによって削られた地形に海が入り込むために、海岸付近で急激に深くなったり、岸近くに思わぬ暗礁があったりと、海岸線がさらに複雑になることが多い。そのため、魚介類にとって流速に変化のある良好な潮通しが生まれ、戦前から戦後にかけて、ワカメやカキ、アワビ、ホタテなどの養殖には好適地されてきた。 その養殖棚の手入れをした漁師たちが、棚の下に集まった魚を晩のおかずとしてを釣って帰るという習慣から、この釣りは生まれた。今回、出船した大船渡市の吉浜漁港も、そうした養殖漁業を背景に遊漁解放している港だ。

養殖筏のブイを上げ、ロープに絡みついた海藻などを取り除く漁師。この作業の後に釣糸を垂らすと晩のおかずには困らない。
養殖筏のブイを上げ、ロープに絡みついた海藻などを取り除く漁師。この作業の後に釣糸を垂らすと晩のおかずには困らない。

釣りだしてすぐに、竿先にツンツンとわずかな魚信を感じ、少し糸を送り込むと、いきなり竿先が海中に没した。そして、カレイは見かけによらず、結構暴れる。 「面白いでしょう。この釣りにはまると、ほかの釣りに目がいかなくなるのですよ」と、現会長の岩渕公一さんは微笑みながら語る。 岩手真ガレイ愛好会は、「騙されたと思って、一回釣りに行きましょう」と言って、実際にこの釣りを味あわせながら会員を募った。そして、毎月の例会ごとに新しいメンバーがやってきて、さらにこの釣りを広めているという。  また、狭いサッパ船で肩を並べて釣ることで、個人的な釣り以外の話もはずみ、釣りを介した特別な横のつながりができ、年齢や職業を超えたコミュニケーションが生まれるというのだ。三陸海岸沿岸で培われたこの風流な釣りは、そういった温かなコミュニケーションを求める人も多いのだという。