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(本誌P.35〜38) |
文◎フィッシング カフェ編集部
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羅臼港から出船した屋上デッキのついたダイビング仕様の真っ白なウォッチングボートは、出船後15分で十数頭のイシイルカに囲まれた。しかしその後は、海面に生き物の気配が消え、ちょっとイヤな感じの沈黙に包まれていた。その船内が突如として慌ただしくなった。数キロ離れたところを航行中の別の観光船がマッコウクジラと思われる噴気を確認したのだという。
「よーし、いるとわかればこっちのもんだ!」
船の展望デッキに据えられたスピーカーから声が響く。声の主は階下で舵をとるキャプテン・長谷川正人さんだ。
この船の名前はエバーグリーン。羅臼港を母港に根室海峡でクルーズを行っているホエールウォッチングボートである。長谷川さんは2006年、羅臼で三代続いた漁師を廃業し、観光船事業を始めた。以来、マッコウクジラやシャチ、ツチクジラ、ミンククジラなどが現れる羅臼の海のすごさを、少しでも多くの人に伝えるための努力を続けている。 |
「前方正面に噴気確認!」
「いたか!」
展望デッキに立つガイドとキャプテンとのやりとりに乗客が沸き立ち、全員が進行方向の水平線を凝視する。
はるか彼方にパッと白い水煙が上がった。
いた! マッコウクジラだ。
船は全力で噴気を追い、マッコウクジラの巨大な体が確認できるところまで近づくと徐々に速力を落とした。「約300mの距離から減速、ゆっくり接近する」「クジラの進行方向を妨げない」「自然な行動を邪魔しない」「約50m以内には接近しない」。これらがホエールウォッチングに際してエバーグリーンが守っているルールだ。
マッコウクジラは定期的に噴気を上げ、国後島をバックに悠々と水面をゆく。なんという光景。そしてなんという存在感だろう。ここはアラスカでもメキシコでもない。まぎれもなく日本の海なのだ。 |
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