写真◎芝田満之 Mitsuyuki Shibata
通称、“魚雷型レインボー”。十勝川中流域に棲息する筋肉質のニジマスは降海型のスチールへッドにも匹敵する強靭な体力、幅広の恵まれた体格を持ち、日本中の鱒釣りファンをうならせるほどだ。
十勝川のニジマスがなぜそうした形に成長するのか? その理由は研究者にも解明されていない。しかし、十勝川中流域で何度となく巨大レインボーを釣り上げた然別湖遊漁管理事務所・事務局長の田畑貴章さんの話によると、「安定した水量ととびきりの生態環境を備えた十勝川に流れ込むたくさんの支流にあるのでは」とのことだ。
「ここのニジマスの特徴は、サイズは小さくてもへラブナのように体高があります。それに十勝川の流れは速いですから、大きな石の下に潜んで流下昆虫をじっと待つというタイプではない。やる気のある奴は、流れの速い瀬に積極的に入ってきて、水温、気温の条件が安定していれば、がんがんバイトします」と田畑さんは言う。 確かに他のポイントで何匹かのニジマスを釣ったが、そのファイトとスタミナには圧倒された。これはもう“ネイティブ”というよりも“ワイルド”と形容したくなる。
十勝川の全長は156キロあるが、水生昆虫も多く、周囲の河畔林も流れに沿って続いており、その豊かな草木のおかげで陸生昆虫であるアリやバッタ、甲虫類やガも大量に発生する。また水量が多く、年間を通じて水位があまり変わらないことも、好影響しているという。仮に上流の積雪量が多く、雪解け水が多く流れこむ場合でも、数多い支流に逃げることができる。支流にも水生昆虫は多く、餌に困ることはない。しかも、本流の流れは強く、ヒレも大きくなり筋肉もつく。積極的に餌を追いかけるので、目が鋭く精悍な顔つきなのもそのためではないかという。
また、数年前に下流にある千代田堰堤にしっかりとした魚道が設けられたことで、アメマスの魚影が非常に濃くなった。田畑さんは「アメマスとニジマスが混成すると稚魚の数が一時的に減る可能性もあるが、いずれ補完しあう関係になるだろう」と言う。
魚類の多様な生態を維持・繁栄させるためには、さまざまな要素が複雑に絡み合う。しかし、絡み合ったいくつもの糸をほどくには、まず、根幹となる糸を明確にすることが必要ではないだろうか。十勝川の千代田堰堤の改修とは、そういった大きな意味を持つ。そして、魚雷のような特級のニジマスの存在と釣果は、そのバロメーターとして大切な役割を果たしている。