大きく張り出したブッシュの下に広がる、わずかな水草の絨毯。その絨毯をめがけ、黄緑色のフロッグタイプ・ルアーが、何の狂いもなく一直線に飛んでいく。転がるように着地したルアーは一呼吸置くと、本物のカエル以上の動きを見せ、「ピョコ、ピョコ」と水草の上を跳ねだした。すると、突如、水飛沫とともに水草が大きく持ち上がり、と同時にラインは鈍い低音を発して伸び、ロッドは弓なりにきれいな弧を描く。
6歳の時に祖父から習った釣りを極め、フロリダ大学在学中に地元のバストーナメントに初参加し、数々の優勝経験を積みながら1989年にバストーナメントの最高峰、「バスマスターズ・クラシック」に初出場。その後、数々の栄冠を勝ち取った「天才バーニー」こと、バーニー・シュルツ氏を取材する機会に恵まれた。
取材中、我々のためにさまざまなルアーを使い分け、あえて難しい場所からフロリダバスを引っ張り出す妙技は“凄い”の一言だ。それは、釣りの達人や名人などという曖昧な表現ではなく、バスボートの操船からリールに巻かれたラインに至るまで、心技一体となってルアーをコントロールする技は、まさに「神業」と言ってもいいだろう。
その凄さを言葉で表すのは非常に難しいが、例えば、普通の釣り人が目指す大きな釣果は、彼にとって目的でも目標でもない。大きい魚を釣る、あるいは数を釣ることは、それがどんな悪天候や悪条件であったとしても、彼は何のためらいもなく、笑いながら成し遂げてしまうからだ。
彼にとっては、魚を相手にした場合の不確定要素がすこぶる少なく、大リーグの四番バッターが投球マシンの球を百発百中で柵越えしてしまうかのように「何分以内に釣れ」と言われれば、求められた魚のサイズも数も大きく上回る結果を残してしまうのだ。そして、こと釣りに関しては、彼にとって「運、不運」という言葉はない。我々取材班は、たった数十分の間にバーニーの桁外れの釣技に圧倒された。そんなバーニーが最後に語ってくれた言葉が印象に残っている。「何歳になっても、新しいことを学ぶことが大切です。新しい技術を覚える努力を怠ったり、他の人の優れた部分を見習おうとする姿勢を失ったとき、釣りも引退するべきだと思います。自分は今でも、人の素晴らしい部分を学ぼうと思っているし、その努力を続けています」と言う。
彼をさして、「天才」「超人」「トーナメント界きってのテクニシャン」など、称賛の声は絶えない。しかし、彼の釣りに対する真摯な姿勢。そしてあらゆる出会いに感謝する謙虚な考え方に触れると、そういった表面的な称賛は陳腐に感じてしまう。バーニーは、自分は59歳になり、これまでの経験や知識はあるが、フィッシングの“現在”は常にその先にある。ベテランになっても、知識やテクニックを常に更新していかなければならない。進歩するためには不断の努力が必要だと言うのだ。「釣りは芸術であり、釣りの中に芸術がある」という彼の言葉の裏には、釣りだけでなく、彼の今この瞬間に対する多くの努力と信念が刻まれている。
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