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環境保護のバロメーター「イトウ」 文◎遠藤 昇
写真◎知来 要

猿払川支流で撮影した婚姻色に染まる雄のイトウ。サイズは1メートル以上。
産卵行動中のイトウは、カメラを設置してもビクリともしない。


「まさに奇跡です!」 今回のイトウ特集の最初の取材。北海道・道北、猿払川の支流でイトウの遡上調査をする『ワイルド・サーモンセンター』の主任研究員、ピート・ランド氏は、雪の残る森の中を流れる支流で、開口いちばんにその驚きを言葉にした。

サケ科魚類の保護を目的として、1990年代初頭に設立された国際環境NPO『ワイルド・サーモンセンター』の主な活動は、絶滅危惧種のサケ科魚類の最もよい棲息地を見つけ、その地域の土地所有者や行政、国家などにその希少性をアピールし、相互の理解を経て、保全地域を確保することだ。そのためには、棲息個体数の把握や生態調査など、あらゆる研究データをそろえるため、極東ロシアや北アメリカなど、希少種となったサケマス科魚類のさまざまな棲息地へ何度も足を運び、リサーチを繰り返している。

そのなかで、流域にこれだけたくさんの人々が暮らしている北海道・道北の猿払川で、日本の淡水魚のなかでもっとも大きく成長し、“幻の魚”と呼ばれるイトウが多数棲息しているのは、“奇跡的”なことだとピート氏は言う。

その大きな理由は、猿払川などイトウの産卵地である源流域周辺の土地を所有する製紙会社が過去30年にわたって森林を伐採しなかったことだという。

イトウは生息環境への依存度が非常に高い魚だ。そのため、自然環境の指針にもなる。環境保護のフラッグシップでもあるイトウを守ることによって、周囲の森を含む河川流域全体の環境が守られることに直結するわけだ。『ワイルド・サーモンセンター』や『(独)国立環境研究所』などの研究機関が、生態の謎が多いイトウの基礎研究に取り組み、地元の人々や企業がバックアップしているのはそのためでもある。

今回のイトウを巡る森の取材を通して感じたことは、自然との関係の深い人だけでなく、多くの人々は、「自然環境を守ることは自分たちの未来を守ることだ」と、はっきり自覚しており、自然と共存する心の準備はいつでもできているということだ。人々はそのきっかけを待っているわけだ。猿払村では、そのきっかけがイトウ保護であり、その具体的な形として「原生林の保全活動」が大きな役割を果たしている。