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取材・文◎遠藤 昇
この本は、島根大学生物資源科学部教授を努める伊藤康宏先生が執筆した『山陰の魚漁図解』(今井出版)。
『出雲・石見魚漁図解』4冊と『因伯魚漁図解』上下2冊の歴史資料の復刻版で、句読点を付け、難しい漢字にフリガナを付け、旧字を常用漢字に直しており、非常に資料性が高く読みやすく再編されている。

伊藤先生のお話によると、この書籍の元になった『出雲・石見魚漁図解』は明治14年、第2回内国勧業博覧会に島根県勧業課から『島根県管内漁具類集図』として出品するための草稿本ではないかと考えられているそうだ。
出品物の実物は長い間所在不明で、写しが『島根県下漁具図説』として東京の国立博物館に残っていることはわかっていたが、『出雲・石見魚漁図解』がどこに保存されていたのか、詳しい経緯はわかっていなかった。ところが、共同研究者が、神田の古書店の目録で見つけ、実際に伊藤先生が神田の古書店を訪ねて確認し精査した結果、内容は国立博物館に保存されているものと、ほぼ同じ。しかも、これには朱書きが入り、張り紙をして訂正している部分があり、まさに草稿本ではないか、と直感したそうだ。

この『山陰の魚漁図解』を読むと、漁具や漁法は昔と今とでは、材質の変化、より精緻化されている部分はあるが、基本は変わっていないことが解る。
「かつて漁民は技術の伝承者として、大きな役割を担っていた可能性があります。農業従事者はその土地に定着しているので、なかなかよその土地へ技術が広まらない。しかし、漁民は船に乗って広範囲に移動します。技術は距離的に離れたところでも、気象条件などが似ていればポーンと飛んで伝播していくことがある。また、最近の研究では、漁業文化は、技術の伝播や人的交流だけでなく、物流にも貢献していたと考えられています。私の研究成果が現代の漁業政策に直結するとは限りません。ただ、温故知新で、将来の漁業を考える上で、大きなヒントになる可能性はあると思います。過去を知ることは未来を知ることにつながります」と伊藤先生は語ってくれた。