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『ヤマトマス』の謎 -溪魚研究という新たな釣り人の愉しみ (本誌P.17〜)  文◎フィッシングカフェ編集部

49年前に釣った一匹のビワマスの幼魚に疑問を持ち、専門外の分野を独自の研究方法で追求してきた医師・吉安克彦さんを取材した。サケ亜科魚類のあらゆる在論を紐解き、尋常ではない釣行を繰り返し、サンプルを集め分析する。それは、これまでのサケ科・サケ亜科魚類の分類・進化過程における学説を揺るがすほどの仮説だ。

その仮説を簡単に説明すると、サケ科・サケ亜科魚類のサケ属の起源種は、もともと北極海付近で発生し、氷期とともに日本近海まで南下。そのとき一番早く南下してきた種がアマゴの祖先であり、現在のサツキマスと同様に海と川を行き来していた。そしてその1氷期後にアマゴの祖先からサクラマスが分化し、そのサクラマスからキングサーモンやカラフトマス、シロザケ、ギンザケなど、太平洋サケ属が生まれた、というものだ。

これまで、サケ亜科サケ属の分類は太平洋サケ属の他にレインボートラウト、カットスロートトラウト、ゴールデントラウト、サクラマス、サツキマスが同列に置かれていた。しかし、そういった種の分類と分岐は、吉安さんに言わせると大雑把すぎるのではないか、という。



吉安さんは、奥さんとともにサンプル採取のために釣行を繰り返し、血液中の血色素・ヘモグロビン解析を行ない、少しずつその研究を重ねてきた。そして、その仮説をたてるきっかけは、九州で出土したおよそ50万年前と推定される、魚類の化石をアマゴの祖先と断定したことだ。多くの考古学者がヤマメの祖先かアマゴの祖先か、判断しかねているその化石に対して、ヒレの化石からアマゴ系と断定。しかも、牙のような鋭い歯があることから、サクラマスやサツキマスのように海に降り、魚を食べていただろう、と推測する。

そして、そのアマゴやサツキマスの祖先を“ヤマトマス”と命名した。1氷期後に生まれたヤマメと異なり、アマゴは日本の固有種だ。アマゴの祖先をヤマトマスと命名した理由はそこにある。

今回、吉安さんを取材して驚いたことは、まず、アマゴの降海型であるサツキマスの祖先“ヤマトマス”が、太平洋のサケ族の祖先であった、と吉安さんが結論したこと。そして、降海型アマゴのサツキマスは、日本固有のサケ属であり、南限のサケ族であることだ。同時に、その貴重な種が行き来する大事な生息域である大型河川が、治水灌漑などの河川改修のために次々と消えつつあるという事実にも気づく。

また、一方で日本の特殊な地形は、河川ごとに個体変異した品種が各地で起こりえる、という吉安さんのコメントにも興味を覚えた。それは、渓流釣り好きにとって、何をどれだけ釣ったかだけではなく、「どんな魚が釣れたのか。どうしてこの魚は他の河川の魚と違うのか」といった、智の喜びや愉しみも、そこに溢れていることだ。“吉安克彦のヤマトマス”を巡る探究心は、まさに天晴れである。