(本誌P.25〜30)
写真◎津留崎健
文◎齋藤海仁
道糸はコードのように太く、魚が掛かると潜行板が反転して海面に浮上するから引きを楽しめるわけでもない。魚が食うまでの間は、その縄を船に縛り付けて眺めているだけ。アタリを取ったり、魚とファイトしたりする普通の竿釣りに比べると、曳き縄釣りの行為自体は実に素っ気ない。そんな釣りのどこが面白いのか、というやや穿った質問に対して、潜行板の名人である玉橋靖夫さんはきっぱりと言い切った。
「魚を探す楽しみが大きいんです。海況速報、海流なんかを見て、その推移も全部判断して、群れの場所を探し当てる。はっきり答えが出るから、研究のしがいもある。私は竿釣りもしますけど、曳き縄釣りほど面白いものはありません」
名人いわく、たとえば昨日、塩屋崎の7マイル沖で2kgくらいのカツオが30本上がったとする。すると、大半は今日も同じ場所に向かうのだが、名人の針路は違うという。
「回遊魚は必ず潮とともに移動します。たとえば昨日、北に向かったら船が遅いんだけど、南には1.5マイルくらい速かったなら、潮が南向きだったことがわかる。そこでカツオがいた潮は、今日はやや南に移動しているんじゃないかと考えるわけです。もちろん、他にもいろんなことを考慮しますが、その推理がぴたりと当たったときは最高ですね」
潮流、水温、天候、海象、さまざまな条件を考え合わせて、ターゲットの居場所を探し当てる。曳き縄釣りの醍醐味はそのプロセスにある。実にスケールの大きな知的ゲームなのだ。