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ポリネシアンカヌー一本釣り漁師の技 (本誌P.33〜37) 文・写真◎遠藤 昇
父島で33年もの間、ポリネシアンカヌーによる一本釣り漁を営む桜井敏和さん。小笠原では、日本人がこの島に入植する以前からこのポリネシアンカヌーが伝統的に使われ、かつて父島では、ほとんどの漁師がこのタイプのカヌーで漁を営んでいた。しかし、現在、職業漁師として小笠原の海に出る方は、桜井さんをおいて他にはいない。
桜井さんの釣りは、基本的にはアカバ(アカハタ)などの根魚釣りだ。釣り上げた獲物は船中の生簀に入れ、活かしたまま持ち帰り、東京への出荷も活かしたまま送る。漁期は1年を通して行えるが、冬場は週に1回出られればいい。
小笠原に来た当初は、潜って伊勢エビ獲りやサンゴ漁もやった。漁と名のつくものはほとんど経験したという。その頃の経験があるから、ハタ類のことは良く知っている。ハタがいる場所は伊勢エビと同じ。潜っていたから水中でどこに潜んでいるかもわかっている。経験を元に編み出された漁法が、浅場で『ハコメガネ』を使って、水中を見ながら釣るというものだ。
桜井さんの漁場は、父島周辺の兄島、弟島、孫島など。船はポイントの近くにアンカリングして潮を待つ。船を潮に流して、10メートルずつ流しながら移動し、その都度「ハコメガネ」で海中をのぞきながら釣る。ポイントは深くても15メートルくらいだ。
根魚漁で肝心なのは、いかに捕り尽くさないか?魚が集まっても全部は釣らない。小さいのは必ず放す。どんなに水揚げが欲しくても、同じポイントで釣っていたら、あっという間に魚はいなくなる。だから、魚場を常に休ませ、たまに行って釣ると決めている。28キロのマハタとか、大きな魚を釣るために同じポイントに1時間以上粘って釣ったこともあるが、その魚が何年費やしてその大きさになったのかを考えると、もろ手を挙げて喜ぶわけにはいかないそうだ。
島は昔に比べて、定期船も大きくなり、その分物資も以前よりは豊かになった。でも、物には限りがある。それは海の中も同じだ。小笠原の島民はみんなそれを知っている。自分も島民として、この釣りを後世までつないでいけるようにしたい。
桜井さんは「ハコメガネ」を片手に、ひとなつこい笑顔を見せ、そう語ってくれた。