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釣り人の視線を忠実に生かす写真家チャールズ・リンゼイの作品      (本誌P.17〜24) 文◎遠藤昇
北にモンタナ州、西にワイオミング州に挟まれたアイダホ州サンバレーは、フライフィッシングの聖地、イエローストーン国立公園のお膝元。ここでもフライフィッシングのポイントは数多くある。そのひとつであるシルバーレイククリークで写真家チャールズ・リンゼイとロッドを振る機会に恵まれた。
チャールズ・リンゼイの写真集「UPSTREAM」は、開いた瞬間から不思議な錯覚に襲われる。ページを開いた自分自身が、その川にいるような、その鱒を釣ったような。そこに収められた56枚の写真は、すべて独特な視点から撮られたものばかりである。フッキングした瞬間の魚、フライと実際の虫にたかられた手、ウィンドノットでさらにトラブったリーダー、一瞬で湧いた虫のハッチなどなど。その写真集の作品の大半はこのシルバーレイククリークだという。

サンバレーは、冬はスキーリゾートして多くの人が訪れるが、初雪前の10月下旬はひっそりとしている。シルバーレイククリークも夏は多くのフライマンが訪れるというが、僕らの他にほぼ誰もいない。
気温は摂氏10℃をきり、水温は12度。しかし、リンゼイはその誰もいないクリークに強くスピードのあるキャストを繰り返す。そして日中気温のもっとも高い正午過ぎには、40cmオーバーのブラウンを立て続けに釣り上げていく。
僕らはしばしチャールズのその流れるような動作に見とれていた。そして、チャールズが前日の取材で、自分の写真集「UPSTREAM」に対して語った作品コンセプトを思い出していた。
「僕は他人がフライフィッシングをしているところを撮ることをやめて、自分の目に焼きつく自分の瞬間だけを撮ることにしたんだ」。
「UPSTREAM」に収められた写真は、すべて彼の視点がどこにあるのかはっきりと理解することができる。写真技法的に言えば被写深度が浅く、遠近がはっきりしている。つまり写真を撮った本人と釣り人として見ている一点がオーバーラップしているのである。そういった技法に彼が気づくのは、9歳からフライフィッシングを続けてきて、釣り人としての技術が格段に高いからだ。
クルマを運転しながらチャールズは「今日はこの時期では最高の釣りができた」と簡単に言うが、決してコンディションの問題だけではない。釣り人の技術と感性が高い次元で上手に融合したからこそ、彼の写真は事実以上のリアリティを見るものに与えてくれるのだと思う。