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沖縄伝統漁船“帆掛けサバニ”と釣り (本誌P.17〜22) 文◎遠藤昇

台湾沖で勢いを強めた低気圧が、まるで南西諸島に沿うように与那国島、石垣島、そして沖縄本島を通過していった。きつい南西風はやがて弱まり、いつしか北東の風に変わっていた。海の色を濁らしていた厚い雲はその風とともに去り、遥か遠くの海上にはサーチライトのような陽が射し込んでいる。すると、まるで蛹が華麗な蝶に変体するかのように、遠浅の海は本来の色を取り戻す。その、まさに南国色の海のなかを一双の「サバニ」が帆走していた。

今回、サバニからの釣りというものを初めて体験した。エンジンや船外機などの動力を使わず、風と櫂、海流を巧みに使う、沖縄の伝統的な帆掛けサバニは海上をすべるように静かに走るその静寂さになんともいえない気持ち良さを感じた。と同時に、かつて沖縄の漁師たちが北陸や千葉の房総半島まで、旅舟として遥か何千キロにも及ぶ移動をしながら漁を行えた理由が少しだけわかった気がした。なにしろ、サバニの機動力は凄い。うねりの中でも波を縫うように走り、釣り座のポジションが低いのでわずか7〜8メートルの小船なのに安定して走り、釣りができる。

この取材でお世話になった沖縄のシーカヤックガイドの仲村氏がサバニに心を奪われた理由がとてもよくわかる。そして、もう一度、海況の安定する夏にサバニでマグロなど大型の魚とやり取りしてみたいと思っている。