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(本誌P.23〜26) |
文◎大川直
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「江戸前和船」、「江戸前の練り船」に興味をもった。東京湾は由緒正しき船釣り文化が栄えた土地。「江戸前和船」、「江戸前の練り船」は、よく耳にする名であり、現在でもハゼ釣りなどに使われてもいる。多くの資料が残されているはずだし、過去の船も大切に保存されているだろう。そんな軽い気持ちで、華やかなりし江戸の釣り文化を支えた木造船、その歴史をひもとこうと思った。
取材をお願いしたのは、船大工として、江東区の無形文化財に指定されている佐野一郎さん。しかし、佐野さんをしても、「江戸前和船」とはなんぞや、というシンプルな問いに答えるのは難しかった。
限られた時間のなかで、資料や文献を漁り、「和船友の会」というボランティアの保存団体の方に話を聞いたり……。小型の木造和船、そんなイメージとしての「江戸前和船」はあるものの、明確な定義は存在しないようなのだ。これぞ「江戸前和船」という定義にはたどり着けなかったが、その魅力の一端に触れることは出来た。字面にとらわれる必要はない。曖昧なままでもいいだろう、と思った。素朴な人力船の快適さ、そんな魅力を紹介できればと……。
これまで、釣り船は合理性を追求して進歩してきた。船体、エンジンの巨大化、高性能魚群探知機の搭載はあたりまえ。現在の東京湾では、釣り人はソナーの有無で釣り船を選んだりもする。
しかし、今回「江戸前和船」に揺られて思った。静かなることの心地良さを。櫓のゆらぐ音。船底を叩く水音。これらが木造船独特のゆったりした揺れとともに味わえた。大型のエンジン船で感じることは難しい、微細な海の表情だ。ハイテク化が捨て去ってきたもの。釣果だけではない釣趣。これこそが現代の釣り人を愉しませるもののひとつではないだろうか。
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