Fishing Cafe

Fishing Cafe ProjectWorld Fishing ReportFishing SalonMagazineBSTVMaking of Fishing Cafe
Top of Making






随筆家の二つの顔 (本誌P.35〜38) 文◎木下卓至
釣り随筆の特集・山本素石編の取材のためにお会いした現ノータリンクラブ会長、新田雅一さんの話は、山本素石という明と暗の異なる面を持っていたことを連想させる興味深いものだった。

素石を会長として発足したノータリンクラブでは、釣りなどの遊び以外、お互いの家庭のことについては語らず、聞かずというのが了解ごとであったという。そのため長年のつき合いがあった新田さんも、脳性麻痺の娘がいたこと、3度の結婚をしていたことなどの複雑な家庭の事情があったことは素石の没後に知ったそうだ。

ノータリンクラブでは、メンバーとともに全国の渓流を釣り歩き、また幻の珍獣ツチノコの実在を信じて探検隊よろしく全国の山を探索して巡った。風貌と同じように性格も豪放磊落そのもので、彼のリーダーシップもあって、釣りでもツチノコ探しでもクラブの活動は全国に知られるまでになった。素石がクラブのみんなとの遊びを、心から楽しんでいたのは間違いないだろう。

そうしたはちゃめちゃな明るさの一方で、思い返せば心の影を感じる部分もあったという。随筆の中にもうかがえるように、日本の田舎の風景や里人への想いは強かった。また、ひとりでの廃村通いも好んだ。こうした明と暗の二つの顔は、表出の仕方こそ正反対だが、どちらもさまざまな問題を抱えた現実からの逃避でもあったのかもしれない。「難しい家庭の事情、それにともなう苦悩が、作家としての素石さんの魅力につながっていたのかもしれません」