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夢中の顔が物語る楽しさ (本誌P.27〜30) 文◎大川直
魚拓をとった経験がある釣り人は少なくないだろう。自分自身、夏休みの自由研究に、休みの間に釣り上げた魚たちを何匹も記録した自慢の一枚を提出したことがある。墨汁をベタッと塗ったコイやウグイ、ブラックバス、イシモチ、メバル。これらに布を押しつけただけの、たいそう稚拙な「作品」だったが、自身では満足で、眺めかえしてはニヤけていたものだ。

もちろん、魚拓家・中西泛祥氏の「近代カラー魚拓」は、そんなモノとは次元が異なる。新たな生命を与えられた魚たちは、緻密な色をまとい、布のなかで生きている。泳いでいる。

 「魚が好き。魚拓をとることが、とにかく楽しいんです。」
取材をして驚いたのは作製のスピード。わずかな撮影時間、その最中に40cmほどのマダイの魚拓を一枚完成させてしまった。「機関銃」というあだ名を付けられたと語る氏だが、なるほど、うなづける。同様のペースで、四十年近く、ほとんど毎日のように魚拓を取り続けている。燃え尽きることのない作製意欲。凡人である僕にとっては理解の範疇を超えている。

「魚が好き。魚拓をとることが、とにかく楽しいんです。」

氏が魚拓をとり続ける理由はこれだけだという。魚拓をとっているときの氏の顔は、何かに夢中になっている子供のようだった。加齢とともに失うものは多い。しかし、大事なものを失わずにいる人もいる。そんな人は実に魅力的だ。僕自身、「作品」を作っていたときは、あんな顔だったのかも知れない。