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(本誌P.35〜38) |
文◎大川直
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東京では40度に近い猛暑を記録していた。日光市から中禅寺湖に向かう「いろは坂」を上るにつれ、ひんやりとした冷気が、車窓から入り込んでは抜けていく。まさに避暑地。都会の異常な暑さから逃げ出し、優雅に釣りを楽しむ。そういう行動をとっている自分を考えるだけで、実に豊かな気持ちになってくる。だが、残念ながら車に積み込んであるのは、釣り道具のかわりにカメラとノート。
かつて、中禅寺湖周辺での釣りを愛した二人の英国人紳士がいた。明治期にはトーマス・グラバー、大正から昭和初期にかけてはハンス・ハンター。今回、中禅寺湖畔を訪ねた目的は、二人が残した足跡を辿ることだ。
現存する、ゆかりの地をいくつか訪ね、また、当時を伝えてくれる数人の人物に出会った。時代こそ異なれど、異国の地で若くして財を成した二人の優雅な避暑生活。それだけでなく、釣り場全体までをも視野に入れた、鱒釣りに傾けた情熱が浮き彫りになるにつれ、釣果や釣技にばかりに目が行きがちな、自らの釣りを戒められるような気分になった。
冒険者たちはいつでも時代を駆け抜ける。その足跡には、年月を経ても色あせない、いくつもの教示が残されているもの
だ。わずかな文字と写真だが、記事のなかでその断片でも伝えられたとすれば、嬉しい限りだ。
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