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(本誌P.21〜24) |
文◎歌野タケシ
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マダイの中でも西の横綱といえば、兵庫の明石ダイである。1尾でもいいから明石ダイにお目にかかろうと、新幹線で兵庫に向かった。
はじめて訪れた明石の町は、なんとも懐かしい匂いのする所だった。商店街のアーケードの下には、八百屋、お茶屋、肉屋、金物屋、靴屋、婦人服店、床屋など、ひと昔前の日本ではどこでも見られたような店が、じつに活き活きとした表情で軒を並べていた。
駅のすぐそばには魚市場があり、乾物から鮮魚まで、ありとあらゆる海産物が所狭しと陳列されていた。調理した魚介類を売る屋台のような店も多くて、焼きアナゴやタコの煮付け、それに焼きダイをひんぱんに目にした。そんな屋台のそばを通りかかると、きまって、砂糖を加えた醤油ダレが焼ける香ばしいにおいがした。
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そんな明石の町を歩いていて目についたのは、マダイとタコの絵をあしらった看板たちだった。マダイは尾ビレを上に曲げて跳ねているポーズを描いたものが大半で、魚体の側線から上は、たいてい淡いサクラ色に仕上げられていた。明石が誇るサクラダイというわけだ。一方のタコのほうは、十中八九、頭に鉢巻きをきりりと締めている。それは、全国いたるところで見かけるタコ焼き屋さんのそれとほぼ同じ絵に見えた。
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明石は、タコ焼きの元となった明石焼き発祥の地である。もちろんそれは、新鮮なタコの水揚げが多い所だからだ。明石焼きの見た目は、タレや青ノリなどのトッピングを加えていないタコ焼きそのものだが、朱塗りの板に乗ってサービスされること、薄く味つけられたダシ汁に浸しながら食べるあたりが、タコ焼きと異なるところだ。
焼きたての明石焼きを箸でつまんで、ダシ汁の入った椀に入れる。箸の先で衣をくずし、中に潜んでいるであろうタコの肉にダシを染み込ませつつ、香ばしいダシ汁と一緒に一気に口中に流し込んだ。噛むたびに、ふやけた小麦粉の衣のやわらかい食感と、明石自慢のタコの切り身のプリプリした歯ざわりが次々に明滅し、なんともうまい。それは、以前大阪で食べたタコ焼きに比べると、なんとも上品で、格調のある食べ物だった。
今度明石にくるなら、船からタコをテンヤ仕掛けでねらってみるのも悪くない。そうだ、ラッキョウやカニも用意しなければ。
明石焼きの味は、そう思わせるに十分の味覚だった。これも、今回の旅の発見のひとつだ。
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