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(本誌P.37〜40) |
文◎齋藤海仁
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「昔はよかった。今じゃすっかり魚が釣れなくなって……」とはよく聞く話。だが、神奈川県のマダイに関しては例外のようだ。
三浦半島の先にぽつんと浮かぶ城ヶ島の一角に神奈川県栽培漁業協会がある。この協会は全国にさきがけてマダイの稚魚の大量放流に成功したパイオニアで、以来、神奈川県のマダイ釣りをずっと支えてきた。マダイの種苗放流を始めたのは78年。データーによると、86年以降、マダイの捕獲量は急激に上昇したという。
実は今回、この話を聞いて「そうだったのか!」と目から鱗が落ちる思いだった。というのも、ぼくは立て釣りで有名な鴨居の出身で、ガキの頃から旦那連中に混じって鯛を釣ってきた身。釣り業界で仕事をするようになったのも釣り雑誌に鴨居の記事を書いたのがきっかけだったし、自慢じゃないがこの歳でもキャリアだけはけっこう長い。
で、振り返ってみると、確かに昔はマダイが釣れなかった。一番数が釣れる落ちの時期でも、1日粘ってアタリすらないのも当たり前。ところが、80年代の後半くらいから徐々に釣れるようになって、今では滅多にボウズを食らわず、日並さえよければ5〜6尾は充分いける。常々「マダイ釣りなんて簡単じゃん」と慢心していたのだ。
もちろん、ぼくは自分の腕が上達したのだとてっきり思い込んでいた。がしかし、それが稚魚放流のおかげとは……。目の鱗と一緒に自信のかけらまで城ヶ島に残してきた失意の1日だった。トホホ。
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