粘る、粘る、とにかく粘る。女性バイク・ラリーストとして日本の第一人者である三好礼子さんの釣りとは、まさにそういうものだった。
昨年10月の初旬に屈斜路湖で行われた三好礼子さんの取材。「最近、トレールランニングのトレーニングが忙しくてロッドを握るのは久しぶり」と、勇んで湖に立ち込んだ三好さんだが、釣り始め当初のロッドワークは少々難航。しかし、砂漠で重量級のオフロードバイクを自在に操る運動神経は並ではない。湖を案内してくれた地元の方のキャスティングをじっと見つめるや否や、ものの数分でフライラインは見事なループを作り、スルスルと伸びていく。そして竿先を操りながら湖へ流れ込む、ゆっくりとした流れに上手にフライをドリフトさせてしまうのだ。まさに圧巻である。
しかし、残念ながら魚の反応はなく、周囲の釣り人の多くはあきらめモード。帰り支度を始める人もいる。三好さんはそんな様子も意に介さず、黙々と一心にキャスティングをくりかえす。
屈斜路湖の湖面に反射する10月の柔らかい陽射しも徐々に高度を上げ、早朝から漂っていた薄雲もすっかり払われ、空の青さが際立ってきた。そんな美しい景色の中で風景の一部となった三好さんが湖水に立ち込む。そして、その決定的な写真を撮ろうと、写真家の足立聡さんも同じく風景の一部となっていた。
その瞬間だった。待望の1匹目は「来たー」という、静寂を割るような三好さんの一声で、突然やって来た。三好さんの握るロッドは大きく弧を描き、写真家の足立さんは湖底の石に足をとられながらも、冷静にシャッターを切り続ける。その様子を見つめるスタッフの表情は不安と笑顔が入り混じっている。
そして、ようやくランディングネットに取り込まれた魚は、50センチ近い太ったアメマス。見事な釣果だ。三好さんの表情も心なしかホッとした気配がうかがえる。ところが、それからが三好さんの本領発揮だった。
気をよくした三好さんは、食事も摂らずにさらに釣り続ける。そして、ニジマス、ヒメマスとその時期に屈斜路湖で釣れるネィティブ化した魚を粘りに粘り釣り上げてしまう。集中力が途切れないその釣りは、見ている者に感動を与えるほどだった。
写真家の足立さんは「釣りに慣れた僕らにはないものが、三好さんの釣りにはある。釣り続けているからこそ、魚は釣れる。そんな単純なことをあらためて認識させてくれるものがあった」と語る。
どんなに条件が悪くても、チャンスは必ずある。それも釣りの醍醐味だ。三好さんの後ろ姿はそう語っていた。