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ツキを呼ぶ南の島の英雄、名嘉睦稔  (本誌P.5〜16) 文◎フィッシングカフェ
編集部

突如、発生した巨大な低気圧とその余波の突風。伊豆大島の取材は当日の午前中までかなりの荒れ模様。しかし、版画家・名嘉陸稔氏が大島空港に到着するや、南西の方角から雲は消え、風は弱まり、5月の好天となる。しかも、睦稔氏は翌日の磯釣り、翌々日の船釣りと、決して良いコンディションではないにも関わらず、狙った魚を釣り上げてしまう。初めての海を相手にである。

ツキを呼び込む力というか、カードの引き方が絶妙なのだ。「地球が数十億年ものあいだに働き続ける命の連鎖を版画に描くことで備わった不思議な力」とでも形容したくなるほど。そして、そのある種、霊的な力を上手にコントロールしているようにも見える。

そんな睦稔氏が、初めての場所、釣り方を行うときの心構えについて語ってくれた。 「普段とは違う土地で釣りをすることは、波の打ち方、石のあり方、フジツボのつき方、そういうことがすべて違うのは当然。波が岩場にぶつかってブレイクする。その飛び散った海水が、毛穴を通して自分の体の中に入ってくる感じを大切にする。人間はとかく視覚的な印象だけでものごとを判断したがるけど、海は五感をフルに使って、全身で感じるべきものだ。そして釣りの楽しみは、魚を釣り上げた瞬間だけではなく、釣りに行くという計画を立てた段階から楽しんでいる」というのが睦稔さんの自論。

沖縄には霊力(セジ)という言葉がある。霊力といってもオカルト的な意味ではなく、その土地の磁場とか“気”のような意味で沖縄では普通に使われる言葉。また、土地にもリズムがあり、人間が住んで心地いい土地もあれば、足を踏み入れないほうがいい土地もある。それはセジ(磁場)の違いだという。

「海には、人間を包み込むようなセジがあり、僕らはそういう場所で釣りという遊びに熱中しているわけだけど、意識しなくても自然とその土地の“気”が体の中に入ってくるし、脳はそれに反応しているんじゃないかな。だから、釣り師は、釣れなくても楽しいんだよ」 と睦稔氏はいう。

いかに自然体でその場にいられるのか。そして、その場の状況に素直に反応できるかどうか。そういった目には見えにくく、言葉では伝えにくい感覚を意識することで、釣りの神様は降りてくるのかもしれない。睦念氏の釣りはまさにそれのような気がしてならない。