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肉体の限界と精神の限界 (本誌P.35〜38) 文◎木下卓至

ジギングは、肉体的にはとても過酷な釣りだ。そのため、日ごろから筋力トレーニングを欠かさないという、ベテランアングラーの話を聞いたこともある。グレート・バリア・リーフでのジギング経験についてうかがった佐々木洋三さんの話も、本文中では紹介できなかったが、それを裏付けるものだった。

ポイントの水深は100メートル以上あり、使用するジグは240グラム。佐々木さんは日本で筋力トレーニングなどを重ねて本番に臨んでいた。それでも実際の釣りは、予想をはるかに超えてハードだったそうで、掛けてはバラすを繰り返すうちに腕はすぐにパンパンに張ってしまったという。ジグを海底まで落として、シャクリながら巻く。このときはテレビ番組の撮影だったため、釣りの間中、カメラが佐々木さんを狙っている。釣れなければ休むわけにもいかず、それも疲労に拍車をかけた、とテレビ・ロケのプレッシャーを教えてくれた。

2日目以降は、腕は丸太のようだったとか。それでもロッドをシャクる力を湧き起こさせたのは、ビデオカメラ、いやカメラマンのプロ根性だったという。「普通に立っているのも大変なくらい、海が荒れてるんです。なのにカメラマンさんは、ヒットした瞬間を逃すまじと、ファインダー越しにずっと僕の姿を追っているんです。途中からは、この人のためにも、絶対大きい魚を捕ってやろうという気持ちでした」と、佐々木さん。結果的には2メートル、60.5キロの巨大イソマグロをキャッチした。


話を聞き終えて思ったのは、アングラーとカメラマンのプロ根性とプライドが、相乗効果となって限界を超える力を引き出したのかもしれない、ということ。釣りでは、名人と凡人の違いが、研究やテクニックの差で語られることが多い。しかし、このハードな釣りの話を通して感じたのは、最後まであきらめない気持ちと「釣らずに帰れるか」というプライドが、いちばん大きな差ではないか、ということだった。