● 日本語を愛し、魚を愛する-21世紀小泉八雲- アーサー・ビナード ●
環境問題は釣り人が背負っている
僕はアメリカの東部の五大湖の近くで育ちました。河や湖でカヌーにもよく乗りました。そしてもちろん釣りです。僕はものごころがついた頃からフライロッドを握っていました。フライフィッシングの師匠である父は、僕が生まれる前はミミズやコオロギなど生き餌で釣っていたそうです。しかし、一度フライに目覚めてからはフライ一筋。僕もコンテストで優勝する名人級のようにはいきませんが、小さい頃から釣りと生活が結びついた環境で育ったわけです。しかし、海を知らないで育ちました。生まれて初めて海を見たのは10歳頃にフロリダへ行ったとき。海で感動したのは、生態系の違いでした。淡水の生き物は「ここが目」「これが頭」と形がはっきりしたものが多いのに対し、海洋生物はどこが頭なのか口なのか、わけが分からない不思議な形の生き物が多い。それが一番印象的でした。環境問題に興味を持つようになったのも子供の頃でした。何せ、世界で一番環境破壊をしている国で生まれたわけですからね。エリー湖も工場排水によるPCB汚染で、とんでもない姿になりました。『ハックルベリー・フィンの冒険』や、開拓時代(あれも開拓 というより環境破壊だったかもしれませんが)の本などを読むと、僕の故郷と同じ場所が舞台なのに、実際目にする光景とはあまりにも違う。それも500年も1000年も前の話ではありません。100年足らずの間にこんなにも酷くなるのかと、子供ながらに感じました
取材・文◎遠藤昇
写真◎岡倉禎志