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SPRING 2004 VOL.14


● 鯛の海「鴨居の立て釣り同行記」 ●

鯛の海 鴨居の立て釣り同行記

東京湾は江戸前の海である。徳川の時代から江戸100万庶民の台所を賄う豊かな海である。釣り師にとっても豊かな海だ。鰺鯖はもちろん、眼張、カサゴ、真鯛、黒鯛、鱸、鯒に平目に鰈、太刀魚、墨烏賊など。それに熱狂的なファンを持つ鯊釣り、半夜の穴子釣りといった風流もある。そして浦賀水道に臨む鴨居の鯛は、将軍家への献上鯛として知られた極上品。東京湾口の激しい潮流が、地付きの鯛を磨き上げるのだと漁師は胸を張る。鴨居は一本釣りの技に生きる漁師の町だ。「立て釣り」といわれるその釣法は、真剣勝負にも似て、テンヤひとつで鯛に真っ向勝負を挑む。アミでもオキアミでもイワシミンチでも、コマセれば魚は寄り、食い気ない鯛の食欲すら喚起する。だが立て釣りは、エビ餌を鯛の鼻っ面に送り込み誘って食わせる。理由はともあれ、鯛が口をつかわなければ、その日その潮時その場所を選んだ己の負けと、立て釣り師は潔い。熱狂的な鯛釣り師をひきつけてやまない理由がそこにある。
取材・文◎宮城鮭介
写真◎高野健三


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